企業が決算を迎えると、決算短信や有価証券報告書など、目的の異なる開示書類をいくつも作成します。その過程では、複数の書類に必要な情報を正確に反映し、内容の整合性を保つために多くの手作業が生じるため、決算・開示業務に大きな負担をもたらしています。
冷凍宅配食「三ツ星ファーム」やスキンケアブランド「Aurelie.」、アパレルブランド「Champion」などを展開するイングリウッドは、将来の上場を見据え、決算・開示体制の整備を進めています。国内外に6社の子会社を持つなか、単体・連結の決算業務から開示書類の作成までを中心となって担うのが、コーポレート統括本部 経理財務部長の森田湧貴さんです。
同社ではFormXを導入し、これまで手作業に頼っていた開示書類の作成プロセスを効率化。作業時間の大幅な短縮を実現しています。FormXをどのように活用し、決算・開示業務がどう変わったのかを森田さんに聞きました。
数字の修正のたびに後工程を確認。手作業が開示業務の負担に
──まずは森田さんのご担当業務と、イングリウッドの決算・開示業務の体制について教えてください。
森田:決算・財務領域を幅広く見ています。まず、イングリウッド単体の決算は5人ほどの経理メンバーと進めていて、私は仕訳の最終承認などを行っています。それに加えて、国内外の子会社6社から決算データを集め、グループ全体の決算をまとめる連結決算も担当しています。
連結決算が終わったあとは、決算短信や、上場準備の過程で作成する「Ⅰの部」などの書類を作成します。決算の数値を開示用の形式に整えるところから、注記と呼ばれる補足情報の作成、書類へ反映して仕上げるところまで、私がひと通り担当しています。
そのほかの領域では、M&Aの前に買収対象企業の財務状況を確認するデューデリジェンス(DD)、買収後の会社をグループに統合していくPMIにも関わっています。直近では、オーセンティック アスレチックウェアブランド「Champion」の日本事業を担うChampion Japan株式会社のPMIも担当しています。
──FormXを導入する以前、決算・開示業務はどのように進められていたのでしょうか。
森田:開示書類の作成ですが、まず連結決算を終えたら、その数字をExcel上で開示書類の形式に合わせて整理します。次に、従来使っていた開示システムに、科目名や数字を一つずつ手で入力していました。
この作業では、例えば会計データ上の勘定科目を貸借対照表や損益計算書のどの表示科目に組み替えるのかなど、判断する必要があるため、一定の開示の知識が求められます。そのため、私が一人で作業を担当していました。最後は書類を紙に印刷して、元の数字と横に並べ、一つずつペンでチェックしていましたね。
監査法人によるレビューでは、作成した書類をPDFにしてGoogle Driveで共有し、記載内容や数字について確認や修正が必要な箇所をコメントしてもらっていました。その内容をこちらで修正し、再び確認してもらう、という流れで作業を進めていました。
──従来の業務フローの中で、どのような点に課題を感じていたのでしょうか。
森田:開示書類の作成は、工場の生産工程に近いところがあります。親会社や子会社の決算数値をまとめて連結決算を作り、それを開示用の内容に整えて、各書類に反映していく。途中で元の数字が変わると、その後の工程の数字もすべて確認し直さなければなりません。
例えば、開示書類を7割ほど作り終えた段階で、子会社から「会計データに誤りが見つかった」と連絡があるとします。すると、元の会計データを修正するだけでは済みません。その変更を連結決算に反映し、開示用に整理した数字を更新したうえで、すでに作成していた開示書類の該当箇所も修正する必要があります。
こうした修正も手作業で行っていたため、一部に修正前の数字が残ってしまう可能性もありました。最後まで修正漏れがないか確認する必要があり、そのチェックには特に神経を使っていました。
決算短信の作成には、これまで十数時間かかっていました。さらに、上場準備で作成する「Ⅰの部」は、当社では経理が担当する部分だけで約100ページに及びます。Wordで作成し、印刷して内容を確認して、修正後にまた印刷するという作業を繰り返していたため、トータルで100時間ほど要していました。
その間も通常の決算業務や子会社からの会計に関する相談への対応などが続くので、繁忙期には土日に出社して作業することもありました。
手入力に頼らず修正内容を自動で反映し、作業時間を大幅削減
──そうした課題がある中でFormXを知ったきっかけ、そこから導入を決めた経緯をお聞かせください。
森田:会計士同士は比較的つながりのある世界ですが、事業会社に入ると、自社の業務には詳しくなる一方で、他社のコーポレート部門がどのように仕事を進めているのかを知る機会は意外とありません。他社の取り組みも知りたいと考えて交流会などに積極的に参加していたのですが、その一つでFormX代表取締役の時田知典さんと知り合いました。
そこで開示業務について話すなかで、決算短信や株主総会に向けた書類など、内容の重なる書類に同じ数字や注記を何度も転記する作業を、以前から非効率だと感じていたことを伝えました。
時田さんも同じ問題意識を持っていて、そうした無駄を減らすためにFormXのサービスを構想していると聞きました。そこで「ぜひ使ってみたい」と伝えたのがきっかけで、2025年6月ごろからPoC(概念実証)というかたちで利用を始めました。
──現在、どのようにFormXを使われていますか。導入前と比べて、業務にはどのような変化がありましたか。
森田:現在は、決算短信などの開示書類をFormX上で作成しています。その際、連結会計システムから決算データをFormXに取り込み、開示書類の項目に合わせて数字を整理するルールを設定しています。そこで整理した数字を、決算短信などの各書類の該当箇所に紐づけています。
連結会計システム側のデータを更新すれば、その変更をFormXに取り込んだ数字や、それを使っている開示書類にも反映できます。以前のように、決算から書類作成までの工程を一つずつたどって数字を書き換えたり、修正漏れがないか確認したりする作業が大きく減りました。
決算短信の作成も、以前は十数時間かかっていましたが、現在は2〜3時間ほどで終えています。数字の転記や照合に使う時間が減った分、新たに必要になった注記や文章を作成したり、新しい取引をどう会計処理し、開示書類でどう説明するかを考えたりと、人の判断が必要な仕事に時間を使えるようになりました。
「Ⅰの部」をFormXで本格的に作成するのは今期が初めてですが、基本的には同じ仕組みを使えるので、以前のように100時間ほどかかることはないのではないかと考えています。
──使い始めた当初と比べて、FormXの使い勝手についてはどのように感じていますか。
森田:かなり変わりました。例えば、使い始めた頃は、当社が利用している連結会計システムからFormXにデータを取り込む機能がありませんでした。そこで「このシステムから数字を取り込めるようにしたい」と相談したところ、FormX側に連携機能を開発してもらいました。
それ以外にも、毎週FormXの方々とミーティングを行い、実際の決算で使うなかで、「こういう操作にできないか」「こういう機能がほしい」と伝えてきました。そうした要望をもとに改善が重ねられ、例えば、当初はなかったユーザーごとの権限設定の機能も追加されました。今後はこの機能を使って、各部門のメンバーと開示書類の作成を分担していきたいと考えています。
開発者と公認会計士が支える運用。開示書類の作成支援も
──導入後のサポートや相談のしやすさについてはいかがですか。
森田:必要なときにすぐ相談できるので、非常に助かっています。FormXの担当者の方と週次でミーティングを実施しているのですが、必要に応じてエンジニアの方にも参加していただいています。機能について確認したいことがあれば、その場で説明してもらえますし、そこで解決できることもあります。改善が必要なものについては、持ち帰って対応してもらっています。
会計や開示の対応についても、公認会計士の方がミーティングに参加しているので、専門的な話をそのまま進められます。以前利用していたサービスでは、問い合わせ窓口に連絡すると数時間後に担当者から折り返しがあり、そこで解決しなければさらに数時間後の回答を待つこともありました。FormXでは、それぞれの専門家と直接やりとりできるので、確認の往復が少なく、回答までが速いと感じています。
特に決算短信は、数字が固まってから社内で承認を終えるまでの期間が短く、限られた営業日のなかで修正を終えなければならない場面があります。チャットツールでもすぐに相談でき、短時間で回答をもらえることは、そうした状況で大きな安心感につながっています。
──2026年8月期の期末決算からは、開示書類の作成支援もFormXに依頼されています。その理由をお聞かせください。
森田:まず、開発元だからこそ、プロダクトを熟知していることが大きいです。私たちが活用しきれていない機能も含め、FormXをどう使えば効率よく開示書類を作れるのかを理解したうえで作業を進めてもらえると考えています。
もう一つは、FormXに所属する公認会計士の方々が、開示書類の作成経験を豊富に持っていることです。以前も、外部の会計士の方に決算短信の作成を一部お願いしていました。その方は監査法人で開示書類をチェックするご経験は豊富でしたが、ゼロから書類を作成する実務とは、専門とする領域が少し異なっていました。
一方、FormXでは開示書類を実際に作ってきた会計士にサポートしてもらえます。今回の期末決算からは、そうして作成してもらった書類を私とCFOがレビューする体制で作業を進めています。
開示業務の効率化から、決算プロセス全体の早期化へ
──今後、FormXをどのように活用していきたいとお考えでしょうか。
森田:まずは、開示書類の作成を私一人に依存しない体制にしたいです。連結決算や開示業務の経験を持つ経理人材の採用も進めています。
すでに、子会社の株主総会に向けた招集通知は、子会社の担当者がFormXで作成し、私がレビューしています。経営企画のメンバーにも一部権限を付与し、経営状況や来期予算に関する記載を直接入力してもらっています。今後は「Ⅰの部」の人事情報を人事担当者に入力してもらうなど、担当領域に応じて分担を広げたいです。
FormXは、ある程度の会計実務の経験があれば、ガイドラインを確認しながら使い始めやすいと感じています。UIも操作がわかりやすく、新しいメンバーに業務を引き継いでいく際にも使いやすいと思います。
一方で、開示書類の作成だけを速くしても、決算全体を早めるには限界があります。決算短信を早く出すには、まず連結決算を早く終わらせる必要があり、そのためには親会社や子会社の決算も早く締めなければなりません。
そのためFormXの方々とは、開示だけでなく、単体決算や連結決算など、その前工程をどう省力化するかという話もしています。当社では開示内容のチェックに生成AIを使うなど、AI活用も進めています。こうした取り組みを広げながら、決算プロセス全体をより早く、精度高く進められるようにしていきたいです。